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災害リスク

「谷」のつく地名は水害に弱い、は本当か|東京23区と横浜市の4,929町丁目で調べた

「谷・窪・沼のつく地名は水に弱い」とよく言われます。東京23区と横浜市の町丁目4,929件について、名前の漢字と、地形・周りとの高低差・洪水の浸水想定を重ねて調べました。当たっていたのは「谷」ではなく、別の漢字でした。

背景:東京駅周辺の淡色地図
背景:東京駅周辺の淡色地図地図:国土地理院 地理院タイル(淡色地図)を加工して作成

「谷・窪・沼のように、水や低い土地を表す漢字がつく地名は、水害に弱い」という話は、防災の話題でよく出てきます。昔の人が土地の性質を名前に残した、という説明です。

この記事では、この話が本当かどうかを、公開されている地図データで確かめます。対象は東京23区と横浜市のすべての町丁目、あわせて4,929件です。町丁目の名前に含まれる漢字ごとに、その町がどんな地形の上にあるか、周りより低いか、洪水のときにどれくらいの浸水が想定されているかを集計しました。

先に結果を書くと、23区では「谷」はあまり当たっていませんでした。よく当たっていたのは、「島」「江」「堀」のような、海や川の名前のほうです。

※この記事は、町の名前と公開データの関係を調べたものです。個別の町の安全や危険を判定するものではありません。

調べ方

使ったデータは次の4つです。

調べたことデータ
町丁目の範囲と名前2020年国勢調査の小地域境界(e-Stat)
地形J-SHIS(防災科学技術研究所)の表層地盤データにある微地形区分(250mメッシュ)
周りとの高低差国土地理院の標高タイル(10mメッシュの数値標高モデル)
洪水の浸水想定ハザードマップポータルサイトの洪水浸水想定区域(想定最大規模)

町丁目の範囲の中に50m間隔で点を置き、点ごとに地形・標高・浸水の深さを読み取りました。そのうえで、町丁目ごとに次の値を出しています。

漢字は名前のどこに入っていても数えています。たとえば「世田谷」は「谷」の町丁目として数えます。

23区の結果

23区の町丁目は3,151件あります。全体では、面積の57%が低地で、34%の町丁目に3m以上の浸水想定がかかっていました。これを基準にして、漢字ごとに比べます。

名前の漢字町丁目の数低地の割合3m以上の浸水想定がある町丁目
23区全体3,15157%34%
谷16743%24%
池4929%2%
沢5322%4%
島9196%59%
江6492%75%
堀3693%83%
浜2687%46%
台11523%14%
丘・岡4416%7%
山8922%7%

「谷」のつく町丁目は、低地の割合も、深い浸水想定がかかる割合も、23区全体の平均より低くなっていました。「池」と「沢」はさらに低く、ほとんどが台地の上にあります。

一方で、「島」「江」「堀」「浜」のつく町丁目は、9割前後が低地でした。3m以上の浸水想定がかかる町丁目も、全体の34%に対して46〜83%と、はっきり多くなっています。

高そうな名前のほうは、名前どおりでした。「台」「丘・岡」「山」のつく町丁目は低地が2割前後しかなく、深い浸水想定がかかる割合も全体より低くなっています。

「谷」が当たらない理由を、市谷で見る

なぜ「谷」は当たらないのでしょうか。新宿区の「市谷」がつく町丁目を例に見てみます。

市谷のつく町丁目は20件あります。そのうち、面積の半分以上が谷底低地なのは市谷田町一丁目・二丁目と市谷八幡町の3件だけで、残りの17件は台地が主な地形でした。標高も、低いところで約13m、高いところで約31mと幅があります。

つまり「市谷」という名前は、谷の底の町だけでなく、その周りの台地の上の町にも広くついています。町の範囲で数えると台地の部分が多くなるので、「谷」の町は平均より高い場所にある、という結果になります。

四谷や谷中も同じでした。四谷のつく町丁目は5件とも台地が主で、低地はありません。谷中は7件とも台地が主で、3m以上の浸水想定がかかる町丁目はありませんでした。

名前と食い違う町

名前と地形が食い違う町もあります。

台東区の入谷一丁目・二丁目は、「谷」がつく町のなかでは珍しく、範囲のすべてが低地(三角州・海岸低地)でした。どちらも、範囲のほぼ全体に3m以上の浸水が想定されています。

反対に、高そうな名前なのに低い土地にある町もあります。葛飾区の高砂は一丁目から八丁目まで8件あり、すべてが低地でした。平均標高は0.5〜2mほどで、8件とも範囲の中に3m以上の浸水想定がかかっています。足立区の小台も2件とも低地で、3m以上の浸水想定がかかっていました。

名前に「高」や「台」がついていても、低い土地にある町はあります。名前だけでは、こうした町を見分けられません。

横浜市の結果

横浜市の町丁目1,778件でも、同じように集計しました。横浜市は丘陵や台地が多く、全体では面積の47%が低地、3m以上の浸水想定がかかる町丁目は9%でした。

名前の漢字町丁目の数低地の割合谷底低地の割合3m以上の浸水想定がある町丁目
横浜市全体1,77847%10%9%
谷10935%18%10%
島3776%5%38%
浜1986%0%21%
台13112%8%2%
丘・岡11222%9%5%

横浜市の「谷」は、23区とは少し違いました。谷底低地の割合は18%で、全体の10%より多く、名前のとおり谷にかかっている町が多くなっています。周りより1m以上低い町丁目の割合も、全体の37%に対して46%でした。

ただ、3m以上の浸水想定がかかる割合は10%で、全体の9%とほとんど変わりませんでした。谷にかかっていることと、深い浸水が想定されることは、横浜市では別のことのようです。

横浜市でも、「島」「浜」の町は低地が多く、深い浸水想定がかかる割合も全体より高くなっていました。「台」のつく町丁目は131件のうち低地が12%しかなく、3m以上の浸水想定がかかるのは2%でした。

港南区の上永谷や芹が谷のように、「谷」がつきながら丘陵の上に広がる町もあります。上永谷三丁目の平均標高は約51m、芹が谷二丁目は約54mで、どちらも周りより高い場所にありました。一方、港北区の大倉山は「山」がつく町ですが、7件のうち6件は後背湿地が主な地形で、7件とも3m以上の浸水想定がかかっていました。

分かったこと

23区と横浜市の4,929町丁目で調べた結果をまとめると、次のようになります。

「谷のつく地名は水害に弱い」という話は、少なくとも23区と横浜市の町丁目の単位では、当たっていませんでした。名前から読み取れるのは、その町のどこかに谷がある、という程度のことです。自分の家がその谷の底にあるのか、台地の上にあるのかは、名前ではなく地図で見る必要があります。

地形や浸水想定の調べ方は、ハザードマップの見方と土地の成り立ちの区分一覧にまとめています。地名と土地の歴史の関係は、地名と土地の歴史で扱っています。

この調べ方の限界

出典・参考

地図
国土地理院 地理院タイル(淡色地図)を加工して作成
文・分析
uuta_map
公開
2026年10月19日

本記事は公開データにもとづく検証の記録です。特定の場所についての評価や助言ではありません。データや制度は更新されることがあるため、実際にご利用の際は最新の一次情報をご確認ください。

YouTubeでも検証を公開しています同じ検証を、地図とあわせて順に解説しています(@uuta_gis)

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