中古マンションを検討していると、光熱費や冬の寒さが気になる場面が出てきます。「2025年から省エネ基準が義務化された」「2024年から住宅の広告に省エネ性能ラベルが付く」という話も耳に入ってきますが、実際に中古マンションの物件情報を見ても、そうしたラベルや等級はほとんど見当たりません。ここでは、制度がどこまでを対象にしているのか、数字が出てきたときに何を意味するのかを、公開されている一次情報から論点として6つに分けて整理します。
論点1: 「義務化」は建てるときの話で、中古の売買には及ばない
まず、よく混同される点から。省エネ基準への適合が全面的に義務づけられたのは事実で、国土交通省の報道発表は「令和7年4月1日から省エネ基準適合の全面義務化」と告知しています。根拠は2022年6月17日に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第69号)です。
ただし、これは建築するときの義務です。建築物省エネ法第10条は、義務の相手を「建築主」、対象となる行為を「建築物の建築」と定めています。増築・改築も対象に入りますが、条文は範囲をこう限定しています。
増築又は改築をする場合にあっては、当該増築又は改築をする建築物の部分
適用の基準時も明確で、国土交通省のリーフレットには「2025年4月以降に工事に着手するものが対象です」と記されています。建築確認申請の時期ではなく着工の時期で切られている点は、制度の説明でずれやすいところです。
ここから読み取れるのは、すでに建っている中古マンションを売買することに、省エネ基準への適合義務は生じないということです。修繕・模様替や設備改修も適合義務の対象外とされています。「2025年から義務化された」という情報だけで中古物件にも基準を満たす義務があると考えると、実態とずれます。
論点2: 省エネ性能ラベルも、中古では表示が「任意」
次に、広告に表示されるラベルのほうです。建築物省エネ法第27条第1項は、販売・賃貸を行う事業者について「エネルギー消費性能を表示するよう努めなければならない」と定めています。条文上は努力義務です。
ただし「努力義務だから何もなくてよい」という建付けではありません。第28条は、告示に従った表示をしていないと認めるときの勧告、勧告に従わなかったときの公表、正当な理由なく措置をとらない場合の命令を定めており、第71条ではその命令に違反した者に100万円以下の罰金が規定されています。
問題は対象範囲です。国土交通省の資料では、努力義務の対象が次のように整理されています。
| 建築確認申請の時期 | 新築時の表示 | 再販売・再賃貸時の表示 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日以降 | 必要 | 必要 |
| 2024年3月以前 | 任意 | 任意 |
同じ資料には「既存建築物は性能が不明な場合があるため、必須とはしないが、省エネ性能が評価されている場合には、表示することが望ましい」という注記が置かれています。
つまり、いま市場に出ている中古マンションの大部分——2024年3月以前に建築確認申請が行われた物件——は、売買広告でラベルを出す努力義務の対象外です。ここから導かれる読み方は次のようなものです。
- ラベルが付いていないことは、性能が低いことの証拠にはならない。単に制度の対象外である場合がほとんど
- 中古物件どうしをラベルで横並び比較することも、現状では期待しにくい
- 住宅の所有者が一度限り持ち家を売却する場合は、そもそも「事業者」にあたらず努力義務の対象外とされている
論点3: 中古向けには「省エネ部位ラベル」が別に用意されている
では中古では手がかりが何もないのかというと、そうではありません。2024年11月から、既存住宅を対象とした「省エネ部位ラベル」の表示が可能になっています。
対象は、次の2つを満たす住宅が販売・賃貸される場合とされています。
- 2024年3月31日以前に建築確認申請を行ったこと
- 省エネ性能の向上に関わる部位はあるが、住宅全体の省エネ性能の把握が困難であること
対象となる住宅の種類にはマンションも明記されています。制度上の使い分けは、設計図面等から性能を計算できる場合は省エネ性能ラベル(設計上の性能)、図面等がなく計算が難しい場合は省エネ部位ラベル(現況にもとづく表示)、という整理です。
このラベルが見ているのは住宅全体の計算値ではなく部位で、発行の要件は窓と給湯器のいずれか一つ以上が表示要件を満たすこととされています。
| 部位 | 表示される内容 |
|---|---|
| 窓 | リビング・ダイニングのすべての窓について、サッシの種類(アルミ製/アルミ樹脂製/樹脂製/木製)とガラスの種類(二層複層/三層複層/真空)。Low-Eガラスは併記され、内窓がある場合はその旨も併記される |
| 給湯器 | エコジョーズ/エコフィール/エネファーム/電気ヒートポンプ給湯器/ハイブリッド給湯器 |
窓が単板ガラスで内窓がある場合は、サッシの仕様のみが表示される扱いです。また、販売・賃貸事業者から委託を受けて現況を確認しラベルを発行する現況確認者という役割が、制度上置かれています。
ラベルの有無にかかわらず、サッシの材質とガラスの構成は内見で自分の目で確認できる部位でもあります。アルミの単板ガラスなのか、樹脂サッシの複層ガラスなのか、内窓が入っているのか。制度が数ある部位のなかから窓と給湯器を選んでいること自体、「図面がなくても現況から判断できる部位はここ」という公的な整理だと筆者は捉えています。
論点4: 数字が出てきたときの読み方(等級・UA値・目安光熱費)
性能評価を受けている物件では、等級や数値が出てくることがあります。断熱性能の指標がUA値(外皮平均熱貫流率)で、数値が小さいほど熱が逃げにくいという関係です。国土交通省の資料に掲載されている断熱等性能等級ごとのUA値を、東京・大阪などが属する地域区分6について並べると次のようになります。
| 断熱等性能等級 | UA値(地域区分6) | 位置づけ |
|---|---|---|
| 等級7 | 0.26 | 暖冷房の一次エネルギー消費量を省エネ基準比で概ね▲40% |
| 等級6 | 0.46 | 同 概ね▲30% |
| 等級5 | 0.60 | ZEH水準(誘導基準相当) |
| 等級4 | 0.87 | 現行の省エネ基準(平成28年基準)相当 |
| 等級3 | 1.54 | — |
| 等級2 | 1.67 | — |
地域区分は1〜8に分かれ、寒冷地ほど求められるUA値は小さくなります。同じ等級でも地域区分によって基準値が違う点は、押さえておく前提の情報です。
マンションを見るうえで知っておきたいのが、等級6・7が使えるようになった時期が建て方によって違うことです。等級6・7は戸建住宅で2022年10月1日、共同住宅等では2023年4月1日の施行でした。つまり分譲マンションで等級6・7の表示が可能になったのは2023年4月以降で、それ以前に設計された物件にこの等級が付いていないのは当然、ということになります。
ラベル上の断熱性能表示には、もう一つ誤読しやすい仕様があります。表示はUA値(熱の逃げにくさ)とηAC値(冷房期の日射熱の入りやすさ)をそれぞれ等級で評価し、低いほうの等級を表示するという決まりです。UA値の等級が5でもηAC値の等級が4であれば、表示は4相当になります。
もう一つが目安光熱費です。これは住宅ラベルの任意項目で、資料には算出の前提が明記されています。
住宅の省エネ性能と全国一律の燃料等の単価を用いて算出したもの。実際の光熱費は、使用条件や設備、契約会社・方法などにより異なります。あくまでも比較検討の目安
居住人数も住戸面積30m²あたり1人(120m²以上は4人)という想定で、生活スケジュールも標準値が使われます。自分の家庭の請求額の予測ではなく、物件どうしを同じ物差しで比べるための数字という位置づけです。
なお、第三者評価を受けている場合はラベルにBELSのマークが表示されます。BELSは省エネ性能ラベル制度に置き換わったのではなく、この制度の第三者評価のルートとして位置づけられています。
論点5: そもそも中古マンションで性能評価書を見かけないのは、数字のとおり
制度の説明が続きましたが、実務でいちばん効くのは交付実績の数字かもしれません。国土交通省が毎年度公表している住宅性能表示制度の実施状況によると、令和6年度の交付実績は次のとおりです。
- 設計住宅性能評価書(新築): 279,010戸。同年度の新設住宅着工816,018戸に対して34.2%で、9年連続の増加
- 建設住宅性能評価書(既存住宅): 172戸(前年度は225戸)
新築では3戸に1戸が制度を使っている一方、既存住宅の評価書は全国で年間172戸です。中古住宅の流通が年間数万戸規模であることを踏まえると、中古マンションで住宅性能評価書に出会う場面はほとんどない、と考えておくほうが実態に近いことになります。
制度上の建付けも、これと整合しています。新築の設計住宅性能評価では必須項目が4分野10項目あり、そのなかに5-1 断熱等性能等級と5-2 一次エネルギー消費量等級の両方が入っています(2022年10月1日施行)。ところが既存住宅では、温熱環境を含めてすべてが選択項目です。国土交通省の資料には次のように明記されています。
必須項目:新築住宅の性能評価を行う際に、必ず評価・表示しなければならない項目。既存住宅においては全て選択項目。
既存住宅にも温熱環境の評価の道はあり、建材や設備機器の仕様が不明な場合には20年前の値をデフォルト値として設定して評価できるという既存住宅固有の規定も置かれています。ただし、それを使う物件が年間172戸にとどまっている、というのが現状です。
論点6: 断熱が効くのは光熱費だけではない
最後に、断熱をどう位置づけるかという話です。国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進事業では、断熱改修と居住者の健康の関係について全国規模の調査が行われています。改修前調査4,131人(2,307軒)という規模の調査で、公表されている知見にはたとえば次のようなものがあります。
- 断熱改修の前後を比較すると、起床時の最高血圧が3.5mmHg、最低血圧が1.5mmHg低下(年齢・性別・BMI・降圧剤・塩分・外気温などで調整した多変量解析)
- 室温が1℃低いと、起床時の最高血圧が約0.7mmHg高い(床近傍の室温では約0.8mmHg)。影響は高齢者や女性ほど大きい
- 居間・寝室とも18℃に保つ場合に比べ、居間18℃・寝室10℃という部屋間の温度差がある場合は、起床時の最高血圧がさらに約2mmHg高い
- 居間・脱衣所とも18℃未満の住宅では、両方18℃以上の住宅に比べ、入浴事故のリスクが高いとされる42℃以上の「熱め入浴」の割合が約1.77倍
光熱費のほうも公的な試算があります。国土交通省の試算では、東京都23区等の戸建住宅で、省エネ基準住宅の年間光熱費が277,000円、ZEH水準住宅が224,000円で、その差は年約53,000円です。
この光熱費の試算は新築戸建住宅について、省エネ基準とZEH水準という等級間を比較した数字で、中古マンションを断熱改修した場合の削減額ではありません。既存住宅の改修前後の光熱費削減額についての公的試算は、確認できた範囲では見当たりませんでした。
こうした数字を踏まえると、断熱は光熱費という金額の話であると同時に、室温という住み心地・健康の条件でもあるという捉え方ができます。中古マンションでは等級として提示されることが少ない以上、窓まわりの現況、住戸の位置(最上階・角部屋は外気に接する面が多い)、内窓の有無といった、見て分かる手がかりを積み上げる形になりそうです。
本記事の制度・数値は、建築物省エネ法の条文(e-Gov法令検索)、国土交通省「省エネ性能表示制度」の公表資料、住宅性能表示制度の実施状況に関する報道発表、スマートウェルネス住宅等推進事業の調査結果に基づきます。制度は改正が続いている分野で、一次エネルギー消費量等級については2025年12月に等級7・8が施行されるなど更新が入っています。最新の一次情報とあわせて見る前提の内容です。
まとめ: 制度は新築から整い始めた段階、中古は現況で読む
- 省エネ基準の適合義務は2025年4月以降に着工する建築が対象で、中古マンションの売買には生じない
- 省エネ性能ラベルの努力義務は2024年4月以降に建築確認申請をした物件が対象。それ以前の中古は表示が任意で、ラベルが無いことは性能が低い証拠にならない
- 既存住宅には省エネ部位ラベル(2024年11月〜)があり、窓と給湯器という現況から確認できる部位で表示される
- UA値は小さいほど高性能。等級4が現行の省エネ基準、等級5がZEH水準。マンションで等級6・7が使えるのは2023年4月以降
- 既存住宅の建設住宅性能評価書は年間172戸(令和6年度)。中古で等級を期待するより、現況を見るほうが現実的
- 断熱は光熱費だけでなく室温を通じた住み心地・健康の条件でもある
ここスコアは、住所を入れると周辺環境と資産性を同じ画面で採点します。物件そのものの断熱性能はスコアの対象外ですが、毎月の負担という観点では買ったあとにかかるお金の全体像、日射の入り方という観点では方角と日当たりの記事とあわせて見ると、光熱費に効く条件が整理しやすくなります。